2015年1月27日火曜日

喫茶店で文章を書くという事

君の人生に影響を与える文章を書かないといけない。
君の人生を百八十度変えてしまうそんな文章を書かないといけない。

新宿で用事が二つあって、その二つの間に三時間ほど空白できてしまった。適当な喫茶店に入ったらコーヒーが一杯八百円もするなんて事が判明して、面食らっちまうような日曜日の事である。
サトーさんを待ちながら。
待ちながらと言っても僕が一方的に前乗りしてるだけだから、サトーさんは僕を待たせているわけでは断じてない。

自分の部屋が大好きな僕は滅多に喫茶店なんて足を運ばないから、コーヒーの値段の相場なんて知らない。
そして、何よりも喫茶店で文章を書くという事を知らない。
漫画家がネームを書いたり、随筆家がエッセイを書いたりするなんて話をよく聞く場所、それが喫茶店だ。
せっかくだから、僕もラッパーの端くれとして、アイスコーヒーを片手にリリックを紡ぎ、ヘッドライドのわくのとれかたがいかした車の前で気取って写真を撮るように悦に浸りたかったである。
喫茶店の中には音楽が一切流れていない。
喫茶店の中には喧騒が延々と流れている。
隣の席の男性三人組の会話が耳に入ってきたり、向かいの女性二人組がケーキを食べる時いちいちフォークと皿がガチャガチャと擦れる音が聴こえてきたり、斜め後ろの男性と女性の二人組のテーブルの上にはそれぞれ現在読んでいる新書が一冊ずつ置いてあり、女性の方の新書のタイトルの中に「閉経」という文字が見えたり、とにかくそういう喧騒が忙しなく流れていく。
そんな中で、膝で四拍子を数えながらブツブツとリリックを書いたとしても僕の存在なんて目立たない筈だ。「あの人、帽子に書いてる数式、計算間違えてね?」なんて聞こえてきても僕は気にしない。
きっと名曲の歌詞がこの数時間で出来上がる。

数分後。

眠い。
無理だ。
僕はこの日、朝の七時半集合でおやすみホログラムというアイドルグループのライブに一曲参加させていただいた。
前半のフリースタイルが上手くできなかったので、実は喫茶店にたどり着くまで何度も玉川上水に飛び込もうとした。
どうやら、僕は誰かの悪口を言ったり、何かに怒っている時でないとフリースタイルに箔がつかないようで、そんなのただの怖い人じゃないかとヤマアラシのようにジレンマを感じた。
数年ラップをやってきて今更気付いたわけである。未体験ゾーンである。
あらゆる刺激慣れっこの現代人に対し、僕ができる事は何なのか熟考する必要がある。
というような事を考え込んでしまって、リリックどころではなかったという事が伝われば幸いである。
ちなみに余談ではあるがアイドルのチェキ会を初めて手伝ったのがなんでかしら凄く楽しかった。思春期に女子とあんまり関われなかったからかもしれない。
そんな僕のiPhoneのメモ帳のタイトルには『不安になる不安たち』と書かれていただけでその先は全く進んでいない。
『不安になる不安たち』?
あっ、『ファイナルファンタジー』か。
自分で書いたくせに忘れている始末である。
そして、八百円のコーヒーを半分くらい飲んだ辺りで急激に眠くなった。
八百円のくせに眠くさせるコーヒーなんてふざけるにも程がある。
セブンイレブンのコーヒーを八杯飲んだ方が眠気覚ましになるに決まってる。

サトーさんと会える時間まであと一時間くらいある。
僕は思った。
もしかしたらサトーさんも用事があって、もうこの辺にいるかもしれない。
メールしてみようかな。
いや、でも僕が前乗りしている事をメールした事により、仮にサトーさんがこれからシャワーを浴びてから家を出ようとしてた所だったとしたら大変申し訳ない。
メールボックスを閉じる。

それにしても眠い。
僕は意を決して紙相撲を作る事にした。
リュックから物販用の値札やPOPを作るための画用紙を取り出してハサミで切っていく。
西〜、借金の山〜。
東〜、貯金の海〜。
とりあえず、人の形に切った左右対称のそれを半分に折って、そんな名前をつけた。
土俵入りである。
そして、僕は「貯金の海」を死ぬ気で応援した。
残った!残った!
残った!残った!
「借金の山」が残ったら誰だって哀しい。
絶対、周りの客は僕の事を変な目で観ているだろう。
「計算間違った帽子を被った気持ち悪いロン毛が一人で紙相撲やってる」って。
でも、気付いて欲しい。
変な目で観てるって事は、つまり君が変な目をしてるって事だぜ。
変な目をした奴に観られているだけの話だ。
全く気にならん。
そうこうしてる間もテーブルを何度も指で叩いていたら店員が「追加注文でしょうか?」ってやってきやがった。
僕は金が無かったので苦し紛れにケーキを頼んだりなんかせず、正直に「呼んでないです」と答えた。

なんとか眠気の峠を超えたらしく、藤原豆腐店と書かれたハチロクが気持ち良く僕の大脳を下って行く。
サトーさんとの待ち合わせの時間の十分前になったため、僕は颯爽と店を出る。
僕はサトーさんにすぐに会う事ができた。
さて、結論から言うとサトーさんはかなり前からこの辺りにいたらしく、僕は変な勘繰りを発揮しないで素直にメールしていれば紙相撲を作ったりする必要は全くなかったのである。
ちなみに紙相撲はテーブルから落ちたら負けというルールにしていたため、なかなか力士が動かず無効試合となった。
きちんと土俵を作っておくべきだった。
人生、いかなる時も土俵という境界線を作らないと痛い目を見る。いい教訓になった。

サトーさんと会った目的はこの写真を撮るためである。




そう、僕のTシャツの宣材写真だ。
このTシャツはそのうちちゃんと売り出すので、少しばかりお待ちいただきたい。
とりあえずはライブ会場で売りたいので、まず僕をライブに呼んで欲しい。
自分のライブがなかなか無いので。

まず、フリースタイルにおいてスランプになっているからそれをどうかしないといけない。
DOTAMAに相談しようか。
稲葉が松本にそうしたみたいにね。