2015年8月17日月曜日

母野宮子のディスクレビュー其の一:DOTAMA『ニューアルバム』

2014年のUMB本戦が終わった後、僕は2013年の時と同じように恵比寿リキッドルームの出口で顔をくしゃしゃにして泣きながらファンと握手したり写真を撮られているDOTAMAに声をかける。
声をかけると言っても実質、特に何も言ってない。
悔しさを理解できるからこそ、第一声で何て声をかけたらいいのかがまるでわからなかったからだ。
結果として僕から声をかけたつもりだったのにDOTAMAの方から声が聞こえてきた。
「僕さ、負けてなかったよね?2本目で勝ってたよね?」
僕は心苦しさを噛み締めながらも、率直に感じた事を伝えた。
本当なら大会後の熱りが冷めてからの方がよかったはずだし、来年どうするかによっては言わないつもりだった。

DOTAMAとR-指定という二人のMCについての説明はあえて省きたいと思う。
なので、知らない人は知ってそうな人に聞いてみて欲しい。おそらく、熱を振るって教えてくれると思う。

僕はDOTAMAというMCについて、勝手な誤解をしていた。
DOTAMAというMCを他のどのラッパーよりも理解していると僕は思っていたが、実際はそんなにわかっていなかったのである。

UMB2014本戦の二回戦最終試合。
去年の決勝カードが早くもここで再現される。
DOTAMA vs R-指定である。
1本目は正直、目を瞑って耳を塞いでいても延長になると確信していた。
1本で決まるような試合を誰も望んでいない。
大袈裟な言い方かも知れないが、この日来た観客の中には「これを観る為に高い金払ってここに来たんだ」って人がたくさんいたと思う。
そして、2本目に突入する。
DOTAMAは1本目で先攻だったため、次は後攻になる。
MC BATTLEに出た事のある人ならわかると思うが、延長の後攻というのは精神的にかなり楽なのである。
そして、ビートも変わる。
チャチな言い方で申し訳ないが、最も伝わりやすい形で言葉にすると倍速ビートである。
R-指定が倍速ビートの乗り方に長けている事はその時、ほとんどの人が認知していた。
逆にこれはチャンスだ。
僕は思った。同様にDOTAMA自身もそう思ったに違いない。
DOTAMAは倍速ビートの時こそ真骨頂を発揮する。そして、幸運にもその事実は当時そこまでバトルファンに浸透していなかった。
そもそもDOTAMAはビートも韻も無視したようなお喋りバトルスタイルでその名を世に広めたのだから。
R-指定が先攻でリズムキープをアピールしてくる事は読めてる。
ここでDOTAMAがR-指定と対等にこのビートを乗りこなすだけで、観客側からすれば虚をつかれたように歓喜する他ないのである。
DOTAMAの後攻1回目はまさに想定通りの展開だった。
次にR-指定が何を言って来ようと後攻の利でねじ伏せる以外に選択肢は無い。
それに先攻後攻2本ずつのルールで後攻がDOTAMAというパターンは2011年を彷彿させ、R-指定のトラウマを抉る可能性だってあった。
ここで一番大事なのは後攻の最後の小節をどう締めるかだ。
ここがドラマチックじゃないと観客は有無を言わさずにもう1本の延長を告げるだろう。硬式テニスのタイブレークのように相手が集中力を切らすまで続くような長期戦を強いられる可能性もある。

結果、DOTAMAはバースの最後をこう締めた。
「確かに三連覇は凄いけど
ギャグラップが頂点になる方が絶対すげぇんだ!」

時系列をリキッドルームの出口に戻す。
「DOTAMAさん自分に嘘ついちゃダメですよ」
僕はそう言った。
本当に僕はなんて浅はかで心無い事を言ってしまったんだとかなり後悔している。
「僕は嘘なんかついてないよ」
「DOTAMAさんって自分の事をギャグラップだって思ってたんすか?」
「今は誇りを持ってそう思ってるよ」
その眼差しは真剣そのものだった。
僕は誤解していたのである。

いきなりまた違う話を始めて申し訳ないが、この間ハハノシキュウのドキュメンタリーをハダさんという気のいいおじさんに撮影していただいた。
そのドキュメンタリー自体はYouTubeで探せばすぐに見つかると思う。
そのドキュメンタリーでカットされた質疑応答がある。
それは全ての撮影を終えて、渋谷駅に向かっている時の事だ。撮影をしてくれたハダさんはこう言った。
「最後に質問してもいいですか?」
僕は「はい」と言い捨てた。
「ハハノシキュウさんにとって『東京』とは何ですか?」
僕はその質問に答えられなかった。
プロフェッショナルみたいにスガシカオの歌が背中で流れていても答えられなかっただろう。
むしろ「あれ?東京ってなんだ?」と頭を悩ませてしまった。
カットされて当然の場面である。
その日から僕は漠然と『東京』って何だろう?と考える事が増えた。

そして、また話は変わる。
僕はこれからDOTAMAの新しいアルバムを前もって聴かせてもらった上でそのレビューを書こうと思っている。
ハハノシキュウが直々に書くのだからAmazonレビューやその類とは毛色が違う。
悪い言い方をすればただのステマである。
ただ、ラッパーの友達がいる人は思い返してみて欲しい。
知っている人のラップは聴こえ方が違う。
僕がまだラップを始める前に、高校の同級生が聴かせてくれた音質の悪いデモテープがなぜかとても特別格好いいものに感じたのを憶えている。
DOTAMAとは地元も違うし、年齢だって違う。僕がラップを始めるよりずっとずっと前からこの人はDOTAMAだった。
術ノ穴のKussyさんから紹介してもらうまでは「般若に「フロウがSEEDAみたい」って言った人だ」という印象だった。

まさか一緒にアルバム一枚作り上げる戦友になるとは想像もしてなかった。
それに僕はDOTAMAを「ギャグラップ」だなんて思った事すらなかった。
そういう意味でDOTAMAが今回作り上げた「ニューアルバム」はどうも特別感が拭えないのである。

「100年経っても新しい、その名もニューアルバム」

そんなキャッチコピーと共に情報公開となったDOTAMAのかなり久方振りのソロアルバムだ。
完全な蛇足だが、このキャッチコピーは僕が一部考えた。

はっきり言ってこれは、連続テレビ小説『DOTAMA』とすら呼べそうな作品だ。なんて僕は思った。
今、まさに放送中の「まれ」や少し前だと言うというのにまだまだ古びれない「あまちゃん」のような地方と都会を右往左往する物語がこのアルバムには詰まっている。
話を少しUMBに戻すが、DOTAMAはUMBの本戦に出場するにあたりずっと東京代表としてクレジットされていた。
2014年にDOTAMAは満を持して地元の栃木県での優勝旗を掴む。
僕は優勝経験などほとんどないから説得力のある言い方は出来ないが、地方予選で優勝するのは東京で優勝するよりも難しい場合がある。
栃木予選に足を運んだ事がないから、あくまで自分に置き換えて話すが、僕が青森予選に出た時に会場のほぼ全員が敵に感じた事を覚えている。
1回戦2回戦の試合を観ていると「誰がハハノシキュウを倒すか?」「俺がハハノシキュウを倒すんだ」という明らかに獲物として認知されている感覚。
結局、僕はベスト8で負けてしまったが今でもどうすればあの時優勝できたのか、全然わからない。
ただ、もし僕が東京かどこかの代表になって本戦でいい試合をしたとしたら、帰省して青森予選に出た時の感触は違ったかもしれない。
DOTAMAは東京からの景色も、栃木からの景色も鮮明にラップしている。
ニューアルバムに収録されている『栃木のラッパー』や『イオンモール』から特に色濃く感じ取れる。
個人的に『イオンモール』はDOTAMAの現時点での最高傑作だと思っている。

DOTAMAと言えば割と俯瞰的な視点の曲が認知されてると思う。その路線のDOTAMAにはさらに磨きがかかっていて『音楽ワルキューレ2』や『名曲の作り方』にはその彼らしさがふんだんに詰まっている。
現状をぼやくだけじゃなくて、ぼやいた上でどうするべきかと闘っているように見える。

ただ、ここまではおそらく誰もが知っているDOTAMAだと思う。
UMBの話をするまでもなく背中に彼は物語を背負っている。
外側から内側を見る事の多かったDOTAMAが素直に自分と向き合う曲、言わばセルフボーストがこのアルバムの最大の味だ。
前述の『栃木のラッパー』もそうだが『HEAD』『自宅ユニバース』『誰も知らない』『要求』そして『カリカチュア』とまさに自画像のような曲が増えたのである。
私事ではあるが、僕は自分と向き合う曲を作るのが辛くてしょうがないタチだ。だから『HEAD』のような言っちゃえば絶対にDOTAMAにしか歌えないような曲は簡単そうに見えてすごく難しいはずなのだ。
『音楽ワルキューレ』や『ホーリーランド』ではどこか他人行儀で、どこかSFチックに、距離を置いていたDOTAMAだがそこに一歩踏み込んだのが『ニューアルバム』だと言ってもいい。
自虐的で諦観的で、それでも自分から逃げないで、そんな自分を面白おかしくラップする。
それが『リスラクション』から先に進むための『リクルート』なのだと僕は感じた。

DOTAMAにしか歌えない。
そりゃ、ラッパーなんだから当然でしょ。と思う人もいるだろう。
しかし、じつのところ本当に難しいのは「誰でも歌える歌」なのである。
僕は、数行前に「『イオンモール』はDOTAMAの現時点での最高傑作だ」と書いた。
なぜ、そうなのかを熱弁してこのレビューを締めたいと思う。
『イオンモール』はDOTAMAのかつて作ってきた曲の中で最も普遍性が高いのである。
そして同時にこれは「誰でも歌える歌」ではないのである。
地元に『イオンモール』または『ジャスコ』があった人間にしか歌えない歌なのだ。
それはまるで『SRサイタマノラッパー』や『サウダーヂ』を彷彿させる一つの答えのようなもの。
僕の予想だとこの『イオンモール』をリミックスしたい、バースを蹴りたいというラッパーが複数人現れると思う。
『東京』というタイトルの曲に名曲が多いのと同じように『イオンモール』という曲も名曲に違いないのである。

そして、僕はピンときたのである。
「ハハノシキュウさんにとって『東京』とは何ですか?」
「『イオンモール』みたいなものです」

100年経っても変わらないもの、つまりは古典のようなもの。
著作権が切れても淘汰されずに残っていくそんな『ニューアルバム』だ。
もしかしたら1000万枚売れるかもしれない。




DOTAMA『ニューアルバム』

01, HEAD (pro. Quviokal)
02, 音楽ワルキューレ2 (pro. Fragment)
03, 名曲の作り方 (pro. Kuma the Sureshot)
04, イオンモール feat.カクマクシャカ (pro. クロダセイイチ)
05, カリカチュア (pro. SUNNOVA)
06, 誰も知らない (pro. 食品まつり)
07, 自宅ユニバース (pro. the mornings)
08, 要求 (pro. munnrai)
09, リクルート (pro. DOTAMA)
10, 栃木のラッパー (pro. Fragment)
11, こんなぶっ壊れた国で (pro. Jr,TEA from エンヤサン)