2015年9月17日木曜日

母野宮子のディスクレビュー其の二:おやすみホログラム『おやすみホログラム』


いきなり書き出しから話が逸れて申し訳ないが、僕は8mm(おやすみホログラムの八月ちゃんとライムベリーのMC MIRIのコラボユニット)の『センチメンタル』という曲の歌詞を書いた人間だ。
はっきり言って作り込んだ技巧的な歌詞ではないけど、内容的には割と気に入っている。
特に2バース目が終わった後の歌の部分が気に入っている。

この『センチメンタル』の歌詞は聞く人によって浮かぶ情景は違うだろうと思う。だからこれは、解説というよりはただの深読みだと思って話を聞いてほしい。

センチメンタルの主人公は女の子で、年齢は中学生ぐらい。時代的には西暦2000年代初頭くらい。
付き合ってはないけどいつもメールしてる男子がいて、ある日眠れない夜に「会おう」って事になって家を抜け出す。
コンビニの光を目印にして二人は合流して、少し遠い場所にある公園でブランコに乗る。
男子の方は吸った事のない煙草を父親からくすねてきて、全然上手く吸えなかったりする。
結局、二人は付き合う事もなければ、手すら触れ合う事がない。
そんな感じの小さな物語だ。
特にオチもない。オチがないからセンチメンタルなんだって歌だ。

じつのところこの歌詞、僕が昔作ったカクニケンスケの『回送ブランコ』という曲の歌詞と話が繋がっている。
言っちゃえばただの深読みだけど。

こっちの主人公は男の子で小学生くらい。時代的には90年代後半くらい。
幼馴染みの女の子といつもブランコに乗って遊んでいたが、理由が思い出せないくらい些細な事で彼女を怒らせてしまう。
彼女に謝ろうと思っていた矢先に急な転校が決まり、謝れないままで男の子は町を去る。
彼はその時に謝れなかった事を人生の後悔として受け止めていて、大人になり就職活動をしながら、そんな初恋を昨日の事のように思い出して憂いている。

『センチメンタル』の主人公の女の子はメル友の男子と並んでブランコに乗るが、そのブランコこそ小学生時代に『回送ブランコ』に登場したブランコなのだ。
『回送ブランコ』の男の子からすれば残り香の強い初恋だが、『センチメンタル』の女の子の頭には彼の事なんてこれっぽっちも残っていない。
メル友の男子とも特に距離を縮められるわけでもなく、切なくなる事すら拒んでいるようなそんな女の子だ。
そして『回送ブランコ』側の男の子からすれば残酷なくらい女の子の方は、彼の事を全く気にも止めていない。

感傷的で叙情的。
おやすみホログラムのプロデューサーである小川晃一さんは感傷的で叙情的な人だと、僕は勝手に思っている。

「君の影が白い雪を蹴って僕の影を埋め尽くした」(おやすみホログラム『before』)

立て続けに普段お世話になっている人のレビューばかりを書いていたら、そりゃ、きな臭くなってしまう。
しかし、僕が「きな臭い」で終わるような人間じゃないって事をよく覚えていて欲しい。
「きな臭い」で終わらないがためにラップを始めた人間だって、昔から僕を知ってくれている人にはきっと伝わっていると信じつつ、最近ハハノシキュウを知った人にもやんわり通じるように話したいと思う。

9月16日におやすみホログラムの記念すべき全国流通盤『おやすみホログラム』が発売された。
僕は北国育ちの人間だからなのか、2曲目の「before」が一番好きだ。
すでに「before」という言葉自体が大人目線で、浸りたい何かがかつてそこにあった事がわかる。
オルタナサウンドそのものが体現している事でもあるのだけど、おやすみホログラムの楽曲は基本的に『未来』の事を歌っていない。後ろ向きに電車に乗った時のように過ぎた後の風景ばかりが浮かんでくる。
この青臭さが現役の中学生にわかってたまるか。と言いたくなると同時に自分が年齢とったなあと嘆きたくもなるような青春観だ。
こういう事を言うとまた媚びを売ってるとか、きな臭いとか思われそうなので、じつに軽率な口調で言わせてもらうけど小川さんの青春観と僕の青春観は結構近くて、楽曲を一緒に作る上でかなり相性がいいと自分で思うんですよ。
お互いに答え合わせ的な話をした事なんて一度もないけどなんとなくそう思うんですよ。
しかも、各々のソロの曲でそれをやろうとすると絶対にひねくれてしまう。
偶像あってこそ素直に形にできる。
素直にと言うよりは伝わりやすいようにと言った方が正確かもしれないけど。

おやすみホログラムもいつかは『before』になってしまう。
『回送ブランコ』の少年のように向こうは自分の事なんて気にも止めてない風に見えてきて、遠くへ行ってしまうような気がする。
これはもちろん、とてもいい意味だ。
僕の手が届かなくなるくらいに売れて売れて、『おやすみホログラム』ってアルバムがいつか『before』になればいいと思う。

「君が遠くなってく、僕はまだここにいる」(おやすみホログラム『before』)

ここまでレビューを書いて、アイドルのアルバムの話なのに「かなみる」も「八月ちゃん」も登場していない事に気付く。やっちまった。
ここまでレビューを書いて、音楽の話なのに具体的な曲の話をしていない事に気付く。やっちまった。
褒めたい事がたくさんあって書き切れないから、9月22日のおやホロワンマンで会ったら直接言おう。
9月22日のおやホロワンマンに行こう。
9月22日は新宿LOFTに行こう。

彼女らが遠くなってく前に。